事業概要
当館では、主に「調査・研究事業」「収集事業」「展覧会事業」「教育普及事業」「永青文庫推進事業」といった事業を行なっております。このページでは、当館のこれら5つの事業について解説いたします。
1 調査・研究事業
当館は、古今東西の美術品等の展示・収集・保存・研究等を目的に設置された総合美術館として、調査・研究事業を行なっております。調査・研究の対象となるのは、美術館の設置母体となる熊本県ゆかりの美術や歴史です。個人や団体、あるいは寺社などに所蔵されている作品の状態や所在を確認する「作品調査」をはじめ、歴史や美術史に関わる史料を掘り起こす「文献調査」、あるいは作家自身や関係者に対する「聞き取り調査」など、その活動は多岐にわたります。これらの調査・研究は、以下に挙げた「収集事業」や「展覧会事業」にも繋がっているため、当館の活動の根幹をなすものといっても過言ではありません。調査・研究の成果は展覧会のほか、研究紀要や調査報告書といったかたちでまとめられ、熊本が誇るべき地域ゆかりの文化や、これまであまり知られることのなかった地域文化の新たな魅力を、次代に語り継ぐ役割を果たしています。当館では、これまでに『県内主要寺院歴史資料調査報告書』、『松井文庫資料調査報告書』、『阿蘇高千穂神社資料調査報告書』、『永青文庫所蔵資料調査報告書(刊行中)』などを刊行することによって、熊本の歴史美術研究の基礎資料を提供してまいりました。
2 収集事業
当館では「1日本及び東洋の古美術」「2日本の近・現代美術」「3西洋美術」についての収集を、別に定める「収集方針」に基づいて進めております。
収集にあたっては、先に挙げた「調査研究事業」の中で得られた作品情報をもとに、館内で候補作品の選定を行い、さらにその候補作品を、外部の専門家によって構成される「収集委員会」に対して、収集の必要性と是非を諮問します。これらのプロセスを経て、収集が許可された作品のみが当館の収蔵品となるとともに、県民の皆様の共有財産となります。その後、当館の収蔵品となった作品は、温湿度を最適に調整した収蔵庫内に保管され、当館で開催される「コレクション展」あるいは「特別展」などで公開されます。
3 展覧会事業
当館では、先に挙げた「調査・研究事業」によって得られた成果を、県民の皆様に広く知って頂くべく、展覧会事業を行なっております。当館で開催される展覧会としては、主に「細川/県美コレクション展」、「特別展」の二つがあります。「細川/県美コレクション展」は、永青文庫が所蔵する美術工芸品および歴史資料や、当館が収集した美術品等を基礎にしたものであり、他館でいう「常設展」にあたるもので、およそ年4回、展示作品やテーマを変えながら開催しております。「特別展」は、調査研究で得られた成果に基づきながら、テーマに関連する作品を他館あるいは所蔵者から借用し、一階もしくは二階の展示室全てを使用する大規模な展覧会です。当館では、開館以来、「熊本の美術展シリーズ」や「郷土作家シリーズ」、「永青文庫展シリーズ」などの特別展を開催し、企画展図録を刊行してまいりました。これらの展覧会では、県民の皆様に優れた美術作品に親しんで頂くことはもちろん、地域文化への理解や、作品・作家の新たな魅力の発見といった、より深い鑑賞体験につながるよう心がけております。また、県民の皆様の制作活動の発表の場となるよう、一階展示室を展示スペースとしてお貸しする「貸会場業務」も行なっております。
4 教育普及事業
当館では、教育庁の所管する社会教育施設として、「子ども美術館」、「スクールミュージアム」、「実技講座」などの教育普及プログラムを設け、県民の皆様の美術や文化に対する理解を促進する事業を展開しております。特に、「子ども美術館」では作品鑑賞のみではなく、体験型のワークショップを通して、展覧会の内容や作品の魅力を小さなお子様にもお伝えできるプログラムを準備しております。
5 永青文庫推進事業
当館では、平成20年4月の別棟・細川コレクション常設展示室の開設以来、「永青文庫推進事業」という一連の事業をスタートさせました。この事業は、①「展覧会事業」②「調査事業」③「修復事業」④「啓発事業」⑤「広報事業」の五つの柱からなっています。①「展覧会事業」は、開館記念展「細川歴代の文と武と美展」(平成20年4月)以来、27回の特別展示(平成25年3月現在)を開催してまいりました。25年4月からはさらに常設展示の規模を拡大してまいります。②「調査事業」は、当館に預かっている永青文庫所蔵品約1470件を調査する国庫(文化庁)補助事業です。③「修復事業」は、当館の永青文庫寄託品・預かり品のなかから、とくに重要な美術品であって損傷の著しいものを選択して修復する事業です。これまでに9件の屏風絵や甲冑などを修復完了することができました(平成25年3月現在)。④「啓発事業」は、永青文庫細川コレクションを広く県民に周知するための事業です。全国から研究者を招聘してお話しいただく、「講座細川コレクション」と名付けた講演会を、これまでに28回開催してまいりました。⑤「広報事業」は、県内外に細川コレクション展覧会情報を周知していく事業で、福岡鹿児島やJR各駅などに幅広く広報活動を展開してきています。これらの「永青文庫推進事業」のうち、調査・修復・啓発・広報活動は、「永青文庫常設展示振興基金」によって運営されています。
熊本県立美術館では、永青文庫に所蔵される美術工芸品の一部(約1,470件)を保管しています。当館では平成20年度から、文化庁の国庫補助事業(地域活性化のための特色ある文化財調査・活用事業)及び県内の企業・団体からいただいた寄付金を活用した永青文庫常設展示振興基金により、これら美術工芸品の精確な内容を把握するための調査事業を実施しています。
調査は分野ごとに実施し、平成23年度には武器武具類(501点)、平成25年度には能面能道具類(178点)、平成30年度には調度類(649点)の調査を完了し、それぞれ調査報告書を刊行しています。今後は、装束・楽器などの工芸品類及び書画・記録類の調査を実施し、令和4年度までにすべての調査を完了する予定です。調査の完了した作品は、当館の企画展及び常設展示において、順次公開を進めています。
①武器武具類:501点
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《紅糸威腹巻》 1領 胴高30.1 桃山時代 初代藤孝所用 | 《黒糸威横矧二枚胴具足》 1領 胴高37.8 桃山時代 2代忠興所用 | 《銀札啄木糸射向紅威丸胴具足》 1領 胴高37.5 江戸時代前期 3代忠利所用 |
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《金梨子地桐九曜紋唐草蒔絵鞍・鐙》 1具 鞍:前輪高27.9 江戸時代中期(鞍橋は室町時代後期) 2代忠興所用 | 《花車文蒔絵鞍・鐙》 1具 鞍:前輪高27.5 江戸時代前期 | 《陣笠》 1頭 径48.4 江戸時代後期 13代韶邦所用 |
②能面能道具類:178点
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《能面 小尉》 1面 縦20.8 横15.6 17世紀 焼印「天下一友閑」 | 《能面 小飛出》 1面 縦19.6 横14.3 16世紀 | 《能面 小面》 1面 縦21.2 横13.4 17世紀 焼印「出目栄満」 |
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《狂言面 賢徳》 1面 縦17.9 横12.8 16世紀 | 《鳥兜》 1頭 高43.3 江戸時代(18~19世紀) | 《馬蒔絵大鼓胴》 1筒 高28.6 胴:室町時代後期 蒔絵:江戸時代中期頃 |
③調度類:649点
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《桜折枝蒔絵櫛台》 1具 櫛台高23.4 江戸時代後期 | 《違鷹羽紋葵唐草蒔絵硯箱》 1合 硯箱縦25.8 横24.2 江戸時代後期 益姫所用(12代斉護室) | 《瓜形香箱・香合》 1具 香箱径10.4 高7.2 江戸時代中期 |
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《叢梨子地違鷹羽紋蒔絵食籠》 1合 径32.9 江戸時代後期 益姫所用(12代斉護室) | 《金彩菊紋鳳凰文盃》 1口 口径9.1 明治25年頃 | 《杏葉紋梅唐草蒔絵挟箱》 1合 縦42.3 横62.8 江戸時代末期 宏子所用(14代護久夫人) |